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城山 リキッドフィンガー(5.13d) 完登


*完登した日の帰り道、いつもの場所で。いつもより少し輝いて見える伊豆の山々

初めて触った2013年からまるまる6年、リキッドフィンガー(5.13d , 8b)を2019年4月4日(木)にようやく完登する事が出来た。

結局年末年始から4月までで登りに行けたのは完登した日を含めて4日。
うち1日は1月末にきたむーと。雨でリップ付近がびしょびしょの中のことで、その後まさかほぼ2ヶ月城山に来られないとは夢にも思わず、もし止まっちゃったら上部は気合で!なんて言いながらお気楽なテンションだった。

予定していたいくつかの日が雨で潰れ、全然通えない中モチベーションの維持も難しかった。
日常的にトレーニングはしているものの、限界グレードにチャレンジする準備が常に出来ているとはとても言い難い日々が続く。

3月に入り城山のシーズン終わりが見えてくると「このままでは完登出来ずにシーズンが終わってしまう!」と焦る気持ちと、このままシーズンが終わってしまえば「行けば登れた」なんて言いながら登れない自分と向き合う苦しみから逃げられるという気持ちがせめぎ合う。

どちらともつかない中途半端な気持ちで3月25日に城山に向かうと、想像以上に良い登りができる自分がいた。核心に至るまでの部分はもちろん、核心部の動きも2ヶ月も空いたとはとても思えないほどスムーズで、核心を突破する事こそ出来なかったものの、最後の左手出しまでほぼ完璧!と思えるようなトライもあった。

改めてリキッドフィンガーを完登する力が自分に備わった事を核心した。

自分は調子の波が激しい。毎回登りに行くたびに自分がどの程度登れるのか不安を抱えている。昔から調子の波が激しく、調子が良いと思える日は1級・初段が一撃できるぐらい登れるのに調子が悪いと3・4級を悪いと感じてしまうほどに登れない。きちんとアップすればもちろん調子は上向くのだけれど、それでも良い日と悪い日の落差が激しい。

そんな自分の評価を修正しても良いのかもしれない。

この日を境に急激に季節が進み、天気は悪くないものの気温が非常に高い日が続く。

このままでは本当に登れないままにシーズンが終わってしまう。

そんな中訪れた花冷え。

スケジュール的には岩場に行くことが出来る。だが・・・。急にスケジュールを変更、しかも自分のただやりたい事のために変更する事への躊躇いは多い。

でも、本当に登れないままで今シーズンが終わって良いのか。

登れないままになんらかのトラブルでリキッドフィンガーというルートが永遠に失われてしまったとしても、仕方がないと笑えるのか。

これまでで一番かもしれないぐらいほうぼうに声をかけるも、前日に声をかけられて突然翌日岩場にいける!なんていう人はなかなかおらず、これで最後と声をかけた近藤さんからOKの返事をもらった時は「本当にいいんですか!?」と聞き返してしまいそうになった。

安堵とともに再び完登への不安が首をもたげる。

今の自分のコンディションで果たして登れるのか。

それでも、この短い時間の中で翌日のパフォーマンスを少しでも高められるよう出来ることをやるしかない。決して登りすぎないように、かといって緩んだままではいないように、慎重に前日アップを済ませ、可能な限り早く眠りに入る。睡眠は何よりも大きくパフォーマンスを左右する。

当日岩場に到着すると期待していたよりも気温が高く感じるが、特に濡れてもおらず、コンディションは良さそうで一安心。

最近はもう、地面でのウォームアップが終わった後はぬんがけとアップを兼ねてリキッドフィンガーに取り付いている。

どうでも良いけれど、ぬんちゃくの名称が完全にクイックドローに置き換わったらぬんがけの事をなんというのだろう。とりあえずアップがてら〇〇してきますね。の〇〇部分。

以前はジャンバラヤをやったりしていたのだけれど、リキッドフィンガーはボルダー強度が非常に高く他の課題を触っても必要なアップが行えないので、もう最初から触りに行く。

その日の調子でルート下部の感じ方が違っていて、アンダーまで本当に優しく感じる事もあれば細かくて悪いホールドに感じてしまう事もある。

また、核心部がアップの1回目で抜けられることもあれば、何度か出しても突破できないこともある。

この日は下部は悪く感じてしまったし、核心はアップ中に抜ける事は出来なかった。

またしても不安が鎌首をもたげて「今日は登れないんじゃない?」なんて囁いてくるけれど、もうここまで来て登れなかった時の事を考えても仕方がないのでいつものようにあちらこちらを押したり動かしたりしながら粛々と自分の調子を上げる作業を行う。

この半年でこの「その場で自分の調子を上げる」作業が本当に上手くなった。

度々ブログにも書いているが約4年前に左肩を痛めて以来、左肩を自分が思ったように力を入れられない事がある。事がある、というより最初から思ったとおりに力める事の方が稀でほとんどの場合は多かれ少なかれ違和感がある。

その違和感を取り除くポイントがわかってきて、少し時間はかかるもののほぼ完全に整える事が出来る。

この部分、ムーブの詳細が書いてあります。
見たくない人は飛ばしてください。

0. アンダーを両手で持ち、クリップが終わった状態
1. 右足をカチに上げてから右手をクロスで3本指ポケットへ
2. 左足を少し上に上げて右足をアンダーにあげてトゥフック
3. 左手をカチに出す(僕は直接上の段に出している)
4. 右手を小指までかかるように持ち直す
5. 脇がしっかり絞れるように持てたら左足を踏みにくいカチに進め、右足のトゥフックを少し左にずらす
6. 右足のトゥフックを外しつつ左手をアンダーにデッド
7. 右足を左足すぐ上の粒に上げ、左足をスメア
8. 右手でカンテのカチ(ピンチ)にデッド
9. 左足を右足すぐ横の粒に持ってきて右足を右の方の粒へ
10. 左手を全力でガバポッケへ

1回目の本気トライ。
やはり、なんて言いたくはないのだけれど核心部のアンダーをしっかり止めることが出来ずフォール。ムーブでいうと6の部分で終わった。
アップで登った時から5のトゥフックをずらす部分がうまく出来なかったのでここを特に意識しつつ何度か核心のトライをするが結局突破出来ず。
焼石も握るとひんやりしてしまうほどで全然足りなかった。

全然惜しくないトライにがっかりしつつまだ肩の調整が十分ではない事にしてビレイしたり岩場の案内などをしつつのんびり。
今思うとこののんびりタイムのおかげで随分気持ちが軽くなった。そういう意味でも近藤さん、ミナミちゃんに感謝。

アップ、1回めとチョークが乾燥しすぎてしっくりこない気がしたので総入れ替え。
チョークバッグに入れたチョークには消費期限があるというのが年末年始の学び。

2回めの本気トライ。
やはり入れ替えたばかりのチョークは良い。焼石も今回は熱すぎるぐらいにしてのトライ。
本日3回目にしてようやく下部をスムーズに抜けることが出来、核心に突入する。
アンダーがベストなポジションではなかったけれど、強引にピンチへデッドすると右手がしっかりと収まった。
左手がすっぽ抜けそうでかなり不安だったがとにかく全力でガバポッケへデッド。

止まった。

え?止まった?という信じられないような気持ち。今までのトライの中で最後の1手を出す状況は決して良いほうではなく、良い状況でも止まらないことの方が多い1手がまさか、と驚く気持ちをすばやく整理してがっちりと抑え込んだ拍子に左足がスリップ、幸いな事に足に体重を移す前だったのと、年末に足を滑らして落ちた痛い経験があったのでそれほど慌てず立て直す事が出来、中間部のレストポイントに到達。

最後のクイックドローにクリップをする。この段になって核心最後のガバを止めたあとにクリップする予定だった1箇所をスルーしてしまっていた事に気がついた。もし気がついていたとしても足を滑らせたりしてかける余裕は全くなかったので迷わずここまでこれて帰ってよかったかもしれない。

あまり長いレストをしてもかえって疲れを感じてしまいそうだったので数回シェイクしたあと、最終パートに突入、しようとしたら後半パート2手目の左手で持つカチの感触がほとんど無いことに気が付きレストポイントに戻る。

想像以上に指がかじかんでしまったようだ。

レストポイントでチョークバッグに入れた焼石をじっくりと握って指先の温度を回復させる。気合を入れればかなり長い時間滞在出来る場所とはいえ、傾斜はきつく、疲労も気になる。また、あまり指先を温めてしまってはぬめるのではないか、という不安もあってどの程度レストするのかかなり悩んだ。

結局指先がほどほどに回復したらなるべく早く登るという事に決めてレストをしたが、意外と冷え切った指先の回復に手間取り凄く長い時間滞在したような気持ちでいた。でも動画で確認したら30秒ほどのレスト、登っている最中は時間感覚なくなりますね。

緊張の後半パート。
ポコチン大魔王(5.12)を登った時にはこの後半もまたかなり苦戦した部分だったけれど、正直今の自分にとってはほぼ落ちる要素の無い部分。

慎重になりすぎず、かといって雑にならないように手を進めていく。

ルーフ最終部である右手ガストンからの左手マッチ、を安定してこなし最終面に到達。

こちらも今まで落ちたことは無いけれど、油断出来ないと言うか、結構ランナウトするので色んな意味で緊張する部分。リップ上のくぼみは見えないのでいつもなんとなくの勘だよりだし。今でもその時に探したスタンスが脳裏に残るぐらい、細心の注意で下半身を安定させてリップ上のくぼみを押さえ、スラブに立ち込む。

左足をくぼみに乗せ、これでようやく、本当に落ちる要素がなくなった。安心して終了点にクリップをかける。

ついに、この時が来た。

長いような、短いような。延べ日数にしたら10日程度しか触っていないらしい。でも、ここ数年冬といえば城山で、城山といえばリキッドフィンガーで、夏場はすっかり忘れてしまっているのだけれど、冬が近づいてくるにつれて今年はこれだけやったから登れるかもとか、全然練習出来てないから厳しいかもとか考えていた。

この先はまた別途書こうと思っているけれど、今までで一番自分の体調管理以外に目を向けた課題だった。逆に体重含めて体調はその日に向けて整えられるほど余裕が無い事の方が多かったので気にせずに行く事にしていた。

3年前に仕事が変わって、2年前に子供が生まれて、環境の変化も沢山ある中で色々な事に折り合いをつけて自己の鍛錬を続けていた事、自己の鍛錬なんていうと偉そうだけれど、もっともっと登れるようになりたいという気持ちが増減はあっても尽きることなく今に続いている事、今その成果を一つ形にする事が出来て本当に嬉しく思っています。

こうして突然岩に行ったりすることを許してくれる奥様と息子に感謝。みんなで一緒に「あ、今日天気いいから学校(仕事)休んで登り行っちゃおうよ!」ってどっか行ける日が来るといいな。


本当に直前にお誘いしたにも関わらず、快く了承してくださった近藤さん、ミナミちゃん、ありがとうございました!

自分がこうして目標のルートを登れたこともさることながら、初城山であれもこれもサクサクMOSしていく登りに大いに刺激を受けました。

また、これまでこのトライに付き合ってくださった皆様、本当にありがとうございました!

どこまでが仕事でどこまでが趣味なのか、未だその切り分けは出来ていないし、他の事との優先順位もつけきれていないけれど、きっとこれから先も同じように悩み続けながら登り続けていくんだろうな。

僕にとって生きる事は上に向かって登る事。

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