mountaineering 北アルプス

[climbling] 北アルプス縦走 part 3 ツンデレ太陽

part1、part2をお読みで無い方は先にこちらからどうぞ。
[climbing] 北アルプス縦走 part1 降りしきる雨の中
[climbling] 北アルプス縦走 part2 大キレット突破

いくら真夏といえども、高度3,000mの夜は寒かった。
結局、八ヶ岳の時と同様に持っている服を全て着込んでの戦いになったわけだが、八ヶ岳の時と大きく違う点が一つある。

今回は持ってくるレインウェアを厳選したということだ。

荷物が膨れ上がることの無いように、レインウェアの上を一つ(水を吸ってしまって大惨事)、下を一つ(実はポンチョだった)、防寒のためのダウンジャケット(mont-bellで今回購入)だけを持ってきた。
これがどういう事かというと、ツェルトがあるとはいえ、着込む服の数が前回より少ないという事。
数日前に準備をして今回はばっちりだとうなずいていた自分の目を覚ましに戻りたいと思った。

前回よりも1,000m近く高い場所で、ツェルトで寝るつもりで出発したのに、前回より防寒具が少ないってどういうことかと。ツェルトのこと信頼しすぎじゃないのかと。

色々と試行錯誤を繰り返し、ブーツ履きっぱなし(靴ヒモは軽く結ぶ)で、半身になって、一番上に着ているポンチョの中に体全体が入るように出来る限り小さくなる、という姿勢が一番暖かいことを発見。風がおさまった22時過ぎにようやく睡眠を手に入れました。

途中何度か目を覚まし、満天の星空に感動したりしながら、置きだしたのが4時過ぎ。
ツェルトの出入り口を東側に向けていたため、外にでて一番に目に飛び込んできたのは、産声をあげる太陽のカケラに照らされ、色を変え始めた空。

寝た姿勢のせいで硬くなった筋肉も、浅い睡眠で上手く働かない頭も、全てを消し飛ばす光景。

自分がどんな声を出したのか、その時に何を考えたのか。
きっと何も考えてなかったし、考える必要なんて無かった。

横を見ると、既にテントの撤収を始めている隣人の姿。
山に登る人の行動は早い。その行動一つ一つにその人の経験をあらわしているようで、人の準備作業とかを見ていると惚れ惚れする。
その姿に引っ張られるように、白み始めた空を横目に見ながら撤収を開始する。
今はまだ、色々な作業を上手く行うことが出来ず、時間を無駄にしてしまうことが多いけれど、毎回考えて、修正していくことで自分も岳人の仲間になれるような、そんな気がするから、ザックから物を出したり、しまったりする行為はとても楽しい。

この太陽の光を一身に浴びているのが常念岳。今回は眺めるだけの山だったが、特徴的で美しいシルエットの山だと思う。

全ての装備を収納し終わってから、2人で北穂高の山頂に位置する山荘に向けて移動を開始した。

途中、山の切れ目から眺める西側の山々はうっすらと色づいているものの、未だ朝を迎えていないようだった。自分のいる北穂高が太陽を遮っているため、西に位置する山には日が当たらないのが当然なのだけど。

山頂に移動してから見る景色は本当にすばらしかった。自分の語彙の無さが恨めしいけれど、北アルプスに囲まれた上高地の上空には雲ひとつ無い状態で、その周り、大天井、常念、蝶ヶ岳の稜線から東には一面の雲。そしてその雲を染め上げる太陽。

まるで、城壁に囲まれた天守閣に自分がいて、その周りに白い雲が敷き詰められているような光景。

北アルプスの周囲も、雲よりも高い位置に顔を出している山々は眺めることが出来ていて、富士山や八ヶ岳、浅間山と僕は名前を知らないたくさんの山が雲の上に頭を出していた。

太陽が完全に姿を見せた頃には奥穂高方面から数名の登山家が到着して槍を目指していた。
北穂高の小屋に泊まったメンバーも大半が槍を目指してあわただしく出発の準備を行う。
どうやら、この好天も長くは続かず、午後には下り坂で、雷雨となる可能性もあるということだ。

この好天を逃さずに行動するために、皆が慌しく準備をして出発していく。
再会を約束し、お互いの安全を祈り、それぞれの道へと進んでいく。

八ヶ岳では山小屋にほとんど関わらなかったから、そうした山の営みを知ることは無かったけれど、とても素敵な場所だった。

僕も、それまで行動を共にした2人に別れを告げて、一路奥穂高へ。

あ、写真は槍だけどね。奥穂高に向かう途中にあまりに綺麗に槍を見ることが出来たので。

久しぶりの快晴の瞬間を逃さずに行動するのは、何も登山者だけじゃない。
山岳救助隊のヘリコプターも、このチャンスを最大限活用しようとあちこちへと飛び回っていた。
詳しい話はわからないけれど、物資の上げ下ろしもするだろうし、糞尿をおろしたりもするだろうし。彼らのお陰で僕はこうして山を登れているはず。

北穂高から奥穂高に向かうには、大キレット程では無いけれど、岩岩としたコルを通過して、涸沢岳を経由する。
ここのルートも非常に楽しく、心踊るルートだった。
ただ、前日起こしてしまった落石の影響から、右手で岩を掴んで乗り込むようなムーブが出来なくなっていたのには閉口した。

気温が上がって元気になるのは人間ばかりじゃないらしい。空一面に小さなツブが浮いていたので、最初はホコリか何かかと思ったのだが、アブの大群だった。風に乗ってかなり上空まで飛び上がっている姿は純粋に羨ましい。でも、壁に取り付いているときに体中にたかってくるのは何とかして欲しいかな。血ならあげるから腫れたりとか痒くなったりするのはやめてもらいたい。

虫以外の生き物にも出会うことが出来た。
スズメのような小さな鳥が飛び回っているのは知っていたのだけれど、聞きなれない鳴き声がするので、辺りを見渡してみたら、なんと雷鳥が一羽草むらの中に隠れていた。上の写真の中にいる雷鳥を見つけることが出来るかな。

そうこうするうちに、涸沢岳に到着。山頂でご夫婦で登山をされている方に出会った。

これから北穂に向かうのかと思ったら、このまま下山されるとのこと。
去年は「槍”だけ”」「今年は涸沢”だけ”」登っているとの事。自分達のペースに合わせて登山しているのは凄い。
僕なんかは欲張りだから、折角来たんだからあれもこれも、とつい無理をしてしまう。

涸沢岳を下ると、穂高岳山荘がある。
この山荘は非常に綺麗で大きな山荘だった。奥穂高と涸沢岳の間の一番低く、広い場所に位置する山荘なので立派なヘリポートがあったり、山荘前に大きな広場があったりと、今まで見てきた山荘とは一線を画した広さだ。

これまで、ほとんど人と出会うことなく山道を歩いていた僕にとって、この山荘の人の多さ、奥穂高岳の登山道の人数はちょっとストレスがあるものだった。これでも、話を聞いたら朝に比べたら随分減っているという話だったのだけれど。

(ここでiphoneの電池が切れてしまったので、ドコモの携帯で撮った写真に変わります)

奥穂高岳の登山道は一番最初にハシゴがあることを除けば、イージーなルートで簡単に山頂に到着してしまった。

実は、この山頂に到達するまでは奥穂高岳に登頂したら、穂高岳山荘に引き返して、涸沢を通って上高地に下りる予定だった。でも、あまりに簡単なルートと人の多さ、そして予想より早く到着したこともあって、奥穂高に登頂した時点で前穂高に向かう事を決定。

直前にジャンダルムを見て、疼いていた事もこの判断を後押しした。

この稜線を見て疼くなというほうが無理な話だ。もう少し時間があって、午後に天気が崩れる話を聞いていなかったらこちらに行ってしまったかもしれない。

そんなわけで、奥穂高を経由して前穂高へと向かった。
道中の天気は至って快晴。若干周囲に雲が沸いて来ていたが、日向が暑すぎることと、アブが多いことを除けば全く問題は無かった。

前穂高への道のりは、人も少なく、道中4人ほどとすれ違っただけだった。やはり、自分のペースで歩くことが出来るのは良い。


向かい側が見えない場所を回り込もうとしたときに、お遍路さんの格好をした人がヌッと現れた時にはかなりビックリした。
後は、おばちゃんとすれ違った時に
「北穂から来たの?何時出発?」と聞かれたので6時ごろに出発して・・・、と答えたら
「おばちゃんは朝6時半に上高地を出発して岳沢を登って来ました。」といわれて、勢いに圧倒された。
でも、こうしてどれぐらいのペースで道を歩いて来たのか知ることは一つの目安になるのかな。


前穂高岳の登山道は比較的険しくて、とても楽しい道だった。ただ、一つ失敗したと思ったのは、荷物を持って登ってしまったことだ。基本的には登った道をそのまま折り返すことになるので、荷物を手放す心配以外はあまり上まで全ての荷物を持っていく必要は無い。

また、ルートが非常に分かりにくく、一般道を通っていればそれほどの難所は無いはずなのだが、一度曲がる場所を直進してしまい、浮石だらけの非常に登りにくい部分に取り付いてしまった。こうした部分はボルダリングをやっていることの弊害だと思う。普通の登山者は、おそらくその道を見た時点で違う、と気がつく事が出来るんじゃないか。なまじ登れてしまうものだから「お、これは面白そう」と進んでしまう。今後気をつけないと、もっと痛い目にあうような気がする。

頂上は非常に残念なことに、僕が登山道に到着する1時間ぐらい前にガスってしまったという話で、実際に何も見ることが出来なかった。でも、分岐点まで降りてから頂上を眺めたら晴れていた。まったく、また来たくなるじゃないか。

一度分岐点で一息ついてから、岳沢を下ることにした。写真に写っているのは一足先に下山し始めた自分の身長ほどもあるザックをしょった高校生?2人組み。こんな年から気の会う仲間と山に登りに来ているのは羨ましいな。

重太郎新道を通って、岳沢に入ることになるのだが、やはり僕は下山するのが嫌いだ。
それでもまだ、樹林帯に突入するまでは楽しく下ることが出来るのだが、次第に上がってくる気温と、見えにくくなる空と、山と。
気持ちを雲の上においてきたから苦手なのか。

途中で耳にした、このルートは人気が無いから岳沢ヒュッテが潰れてしまった、という話も納得してしまった。
梓川沿いを登るルートと比べると、真っ白い岩が川を成している岳沢沿いを登るのは、見劣りしてしまう。

道が比較的平坦になってから、去年八ヶ岳で遭遇した健脚おじさんの歩き方を真似て歩いてみたら、疲れを感じるよりも足を進めることに集中するので、距離が稼げて比較的良かった。ただ、界王拳と一緒で、使った後反動でしばらく動けなくなる。

下山して上高地に着いたら、そこは完全な異世界だった。
ポロシャツにチノパンといった典型的お父さんを始め、サングラスを頭にかけたお母さん、辺りを駆け回る子供達。
自分がそこに居る事、彼らがこの山に居る事、こうして同じ場所に立っている事にすごい違和感を覚えてしまった。
彼らと自分とは違う世界の住人なんだな、という感覚というのだろうか。

ともかく、キラキラと輝く梓川の流れと戯れる家族や、木陰で涼むカップルといった避暑で上高地を訪れた人たちを見たときに心の中にモヤっとしたものが生まれた。いや、別に避暑で来るのが良いとか悪いとかじゃないのだけれど。

バスターミナル周辺のお店でエネルギーを補給して、松本に住む友人と飲んでから東京へ帰宅。

今回助けてくれた道具達。カバンのとこまでね。椅子とかは関係無いよ。真ん中の赤い袋がうわさのポンチョです。

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