[climbling] 北アルプス縦走 part2 大キレット突破
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[climbing] 北アルプス縦走 part1 降りしきる雨の中
一度2時頃に起床し、外の天候をチェックするも相変わらず雨は降り続いており、視界がほとんど無い状態。
昨日の状態から予想はしていたが、足がひどく痛む。幸い、どこかを致命的にいためているわけではなく、許容量を大きく越えた移動によって体が悲鳴を上げている状態。
こんな時間なのに、天気をチェックしてトイレに行って、と移動していたら既におじーちゃんおばーちゃんはわりと活動を開始していた。
とりあえず日の出までまだ3時間近くあるので寝なおす。
4時過ぎにおきると、辺りは既に出発の用意を終えた人々で騒がしかった。
まだはっきりとしない意識と痛む体を引きずってレインウェアを着込む。昨日から行動を共にしていた2人も既に準備を終えており、とりあえず槍の穂先へ向かうとのことで一緒に外へ。
槍の穂先への道は思いのほか険しく、ほとんどハシゴを登っている状態だった。ここに一番最初に来ようと思った奴は凄い。絶対馬鹿だと思う。
でも、僕はそんな馬鹿に憧れてしまう。鎖もハシゴも無い、そんなタダの岩山に登りたいと思う。
そこが、まだ誰も踏んだことが無い場所なら最高だけれど、別にそのことはそれほど重要ではないと思う。
槍ヶ岳登頂。標高3,180mで日本の山の中では5番目に高い山。富士山の3,776mが際立っている他は、3,100m前後にかなりの数の山があって、2番目の北岳(3,193m)から20番目の立山(3,015m)まで3,000m~3,200mの間に入ってしまう。
やっぱり、まわりが何も見えないと達成感に欠けると思う。
かなり苦労して到達した場所ではあるんだけれど、それほど感慨は無かった。
ただ、北側から登ることも出来るらしく、それはちょっと魅力的だ。
山頂から降りる途中で一瞬小槍を見ることが出来た。アルプス一万尺の歌詞ではそこで踊るみたいだけれど、とても踊るようなスペースがあるようには見えない。
山荘に戻ったら、たくさんの人が既に出発の準備をしていた。
これからの目的地はわからなかったけれど、一人の人が大きな声を出して全員に指示を出していた。
「**時に○○に集合します。登れても登れなくても、降りる指示が出たらすぐに下ってください」
というような内容の事を言っていたような気がする。
山に登る時に人数が増えると行動の自由度が奪われるような気がして僕は苦手。
朝食にはアミノバイタルの試供品が添えられていた。純和風の朝食の横にアミノバイタルが添えられている様子はある種異様で、とても面白い。おじさん達はなんだこれー?とかいいながらジロジロ見ていたけれど、僕はかなり効果を実感しているのでその時は摂取せずに保存。
少なからずアミノ酸の摂取を主とした製品だと思うので、運動中の摂取が望ましいと思うんだよね。
同行していた二人はとりあえず南岳まですぐに出発する様子だったけれど、あまりに足がつらいので僕は時間ギリギリまで回復に努める事にして二度寝。
山での行動は早朝スタート、という意識が強かったからこの判断にはかなり悩んだのだけれど、結果的には大正解だった。
8時頃に目を覚ましたら、足はかなり回復していた。
今回の目的の一つに、大キレットを越えるというのがあった。登山、という意味ではあまり自信は無かったけれど、岩登り、という視点ではそれなりに自信もあったし、一般ルートでそんなに辛い場所があるはず無い、と思っていたので、かなり天候が悪化しない限りは大キレットを超える事に決めて南岳に向かう。
道中はそれほどの難所も無く、こういうガラガラっとした岩場がある程度。相変わらず視界は悪いけど、雨の勢いが強まることは無かったのが救い。
天候のせいなのか、タイミングの問題なのか、道中ほとんど人に会うことが無いのが不安でもあったけれど、良かった。山道を歩いていて、時折人とすれ違う、その程度なら良いのだけれど、前にも後ろにも人がいっぱいいて、始終話し声が聞こえるような環境は街中だけで十分。
途中、すれ違ったのは2人。どちらも北穂から大キレットを越えてきたらしい!
「人が少ないから気を使わなくて楽」
「たいして問題ないよ」
との声に改めて大キレットへの思いを強くする。
そうこうするうちに南岳山荘が見えてきた。ちなみに、この写真は小屋そのものじゃなくて、小屋の横にある売店ね、念のため。
丁度、僕が到着したときには昼食を済ませた人々が出発するタイミングで、混雑していた室内もほどなくがらがらに。
どうやら大キレットを越えずに降りる人がほとんどのようだった。
とりあえず僕も昼食をとるべく準備開始。
昼ごはんはアルファ米+乾燥キムチチゲスープの素。
アルファ米を食べるのも作るのも初めてだったんだけど、乾燥スープを一緒に戻したらおいしいんじゃないかと思って挑戦したら、これが大成功。戻す、というより一緒に煮込んだ感じ。
八ヶ岳でも一応お湯を沸かして乾燥スープは食べてたから、初体験ではなかったんだけど、初めてのアルファ米と、自分で買ったクッカーの初使用に結構興奮した。でも写真は忘れた。
南岳小屋で出会ったパワフル3人組。
右のおじーちゃんはずーっとクライミングをやっているらしい。大先輩。
真ん中のおばさんはこの前はアルプスに行ってきたとか、シベリアに行ってきたとか、とにかく行動的。
たしか3人とも九州から来たという話だったけれど、天気が良くなるまでこの小屋に滞在して、良くなったら大キレットを越えるんだって。たしか70近いお年だったと思うのだけれど、山はいくつになっても楽しめるのが良い。
左のおじーちゃんが「今が一番若いから」って言っていて、結構名言だと思った。
1時間ほどここでゆっくりしていたら、雨が弱まってきた!
2人はまだ悩んでいたけれど、僕はもう大キレットに行くことを決めていたので、天候にも後押しされるような形で大キレットに向かう。
足取りも軽く進んでいたら、後ろから叫び声が聞こえてきた。
南岳から大キレットに向かうと、しばらく下り坂が続いた後、クサリ場やハシゴで大きく高度を落とすんだけど、丁度下りきって稜線に入り始めた頃だった。
どうやら、2人も大キレットを越える決断をしたらしい。それに応えながら、前を目指す。
後ろから2人が来ていた事は結構嬉しかった。1人で歩いていくことはとても楽しいのだけれど、それを共有できる人間がいることはさらに嬉しい。
灰色の岩としがみつくように生える草の緑とが入り混じった稜線。
一瞬手の力を抜いたら、そのまま下に落ちてしまいそうな場所を何度も通りながら
ちょっとバランスを崩したらそのまま下に落ちてしまいそうな地面を踏みしめながら
ふとすると見入ってしまう自分を前に進めながら
時折後ろから聞こえる叫びとも呼びかけともつかない声に応えながら
「何故山に登るのか」「そこに山があるから」
なんていう言葉はなんの答えにもなっていないな、とか
「尾根のむこう」って良い言葉だな、とか
そんなことを考えながらひたすら前に歩いていく。たまらなく楽しい。
やっぱり頭をよぎることはそんな俗世の事だったりする。さすがに仕事のことはほとんど考えなかったけど。
途中長谷川ピークという場所を通過する。
上の写真は長谷川ピークの直後なんだけれど、本当に歩く場所が無くて、山が三角形になっている場所。
御岳の岩みたいに、磨かれてツルツルした岩だったら凄く怖いんだろうけれど
掴むところはいくらでもあるし、ガバだし、ザラザラと掴みやすい岩なので、思いの他怖さは無い。
下のほうはガスっていたから、高さがあまり実感出来てないというのもあるかもしれない。
登り始めてから考えていたのは、自分が落石を起こしたときに、後続の2人を巻き込むことが無いぐらい距離を離しておきたいという事。高さの差があれば、ひどく小さな石一つで下の人が致命傷を受けることも十分に考えられるし、その石一つがどれだけ周りを巻き込むのか想像もつかない。
クサリ場ではほとんどクサリを使わずに登っていた。
基本的にクサリを使うと重心が離れてしまい、登りにくいというのが少しと
自分の力ならそんなもの使わなくても登れる、という自負からだ。それが落石を起こすとは、その時は想像もつかなかった。
その場所は、少し長めのクサリ場で、細めのクサリが太いクサリに繋がってしばらく急な壁を登っていくような場所だった。
クサリのしたには細かく砕けた砂利と呼ぶには大きすぎる石がゴロゴロしていて、クサリを使ったら落石を起こさずにはいられないとも思い、横の岩肌にとりついて登り始めた。
予想以上に浮石が多く、かなりルートに悩みながら登っていたんだけれど、中ほどでわりと大きめのクラックに右手を突っ込んで
乗り込もうとした時、自分の体ほどもあるその岩が右手に引っ張られるままにずり下がってきた。
乗り込んだ瞬間に右手の負荷がフッと軽くなったと思った瞬間、必死でその岩を両手で押さえていた。
しかし、それほど大きな岩が滑り始めたのを抑えることが出来るはずも無く、早々に抑えることを諦めて今度は自衛のために横に逸らせる事だけを考えていた。自分が横に流そうとしたことが効果があったかどうかは定かではないが、乗り込もうとした段差にはじかれて岩が割れ、4分の1程を僕の目の前に残して大きな塊はクサリ場の下へと逸れて行った。
本当に運が良かったと思う。自分が生きていたことはもちろんだけど、後ろに人がいなかったこと、クサリ場の下はわりと広めの場所だったため、それ以上落石が起きなかったこと。
ありったけの声で「らーく」と叫び、後ろからの声に応え、とりあえずクサリを使ってその上の安定した場所まで体を上げる。
よくよく見ると、自分がクラックだと思って手を突っ込んだ岩は、ただのっかっていただけの岩だったことが分かった。
しばらく進んで、長めの坂の前で休憩をしていたら、後続の2人のうちの1人が追いついてきて「良かった」とのこと。
どうやら、大丈夫かー?という声に応えた俺の声はほとんど聞こえていなかったらしく、心配して一緒にいた相棒を置いて追いついてきてくれたということだった。落石の対応に関しても、起きたときに下に叫ぶ以外はどうしようもないからそれで良いんじゃないかとのことだった。
北穂高山荘はもうその最後の坂を登ったところにあったため、2人とも山荘まで移動。もう1人がなかなか到着しないため、1時間ほど待ってから迎えに行くというエピソードもあったが、迎えに行ったらすぐ下まで到着していたとのことで無事に3人揃って大キレットを越えた。
空は比較的明るかったが、山荘に着く直前から降り始めた雨は強くなる一方だった。
2人は今日も山荘に泊まるという事だったが、金銭的に僕はテント泊をするしかなかった。
とりあえず夕食を作って食べていたら、同じようにテント泊予定だけど、雨で出発を見合わせている人と知り合う。
どうやら、北穂小屋のテン場は少し距離が離れていて、10分ぐらい歩かないとつかないらしい。
そろそろ日が暮れる時間も近づいていたので、その人は一足先に行ってるよ、と言い残して雨が降りしきる中、テン場へ。
僕はギリギリまでふんぎりがつかず、ダラダラしていたんだけれど、いよいよ時間が無いな、と思って準備を整えに乾燥室に。
乾燥室で必要な装備をすぐ出せるように準備していると、晴れた!すぐ外来て!とのこと。
なかなか観ることが出来ないという槍ヶ岳も、その姿をはっきりと見せてくれた。
予想外に持っていたものの、大活躍のポンチョ。
このとき初めて槍ヶ岳を見ることが出来た。
遠くから見てもはっきりとわかるその姿に皆がひきつけられるのも当然だと思う。
もっと天気が良いときに槍の頂上に登りたかったから、きっとまたくる。
ただ、どんなに写真で見ても、説明しても、見た瞬間のほっとするような、痺れるような、頭が真っ白になる感覚は伝わらないだろうと思う。
もっとたくさんの人がそれを見られたら素敵だなー、と思うからブームに乗っかった登山でも山に来るきっかけとしては良いと思う。そしたら山の話をもっとたくさんの人と出来るのに。
でも、たくさんの人には見られない景色であり続けて欲しいとも少しだけ思う。
初設置のツェルト。
ペグを打つことが出来なかったため、四隅に岩を置いて重石にしてなんとか形を保ってます。
自分で買ったツェルトの中で眠ることが出来る喜び。
この日は一度風が強く吹いたものの、雨が降ることは無かった。
中天に輝く間もなく満ちる月と、それに照らされる岩肌が黒いと思っていた夜が実は濃紺であることを教えてくれたり
月の光で出来る岩肌の陰影がとてつもなく綺麗だったり
シュラフの無い山の夜はいくら夏でもあまりにも寒かったりと色々あった。