mountaineering 北アルプス

[climbing] 北アルプス縦走 part1 降りしきる雨の中

自分の意思で初めて山に挑戦してから(参照記事:八ヶ岳縦走)、はや1年が経とうとしていますが、どうにか1回だけの思いつきにならず、今年も山に行くことが出来ました。本当はもっと頻繁に登りに行きたいけれど、そっちの方向に進むかどうかはまたそのうち。

今回は北アルプスの縦走ということで、最低槍ヶ岳から大キレットを通って北穂高岳に行くことを目標としました。
実際は
1日目:上高地から槍ヶ岳山荘まで
2日目:槍ヶ岳山荘から槍ヶ岳を登頂して、北穂高小屋まで
3日目:北穂高小屋から奥穂高岳、前穂高岳を通って岳沢経由で上高地
という行程。

まずは東京から槍ヶ岳山荘まで。

上高地へは、東京から松本まで電車、松本から松本電鉄にのって新島々、そこからバスに乗り換えて上高地というアプローチを取った。直前まで21時新宿発の中央線特急で0時に松本に入り、4時45分発の松本電鉄、という予定だったので仕事を定時に上がったのですが、渋谷でJRの駅員さんに松本に行く方法を聞いたら「ムーンライト信州」という夜行列車が出ているとのこと。
しかも、特急だと7000円近くかかるのに対して、夜行列車だと4000円。

というわけで出発前にペキペキで登って30分しかないのにグビグビ飲んでから出発。


ムーンライト信州。全席指定席のため、事前に切符の購入が必要。ペキペキに着いてから、結構混むという話を聞いて駅に行ったら予約状況は○(余裕あり)だった。だから隣が空いてる事を期待してたんだけど、車内放送によると満席。
隣は明らかに山にのぼりに行く様子のおばちゃんだった。

もっと山に行く人ばかりかと思っていたけれど、車両の中だと3分の1ぐらいか。
こうして旅慣れた人を見るといつも思うのが、細かい部分で幸せになるための準備が整っているなー、という事。
食事の用意もそうだし、寝るための準備や小物入れを用意していたりとアプローチの部分が上手。

このムーンライト信州という電車のすばらしい点が上高地までの接続がスムーズという事。
23:59 新宿駅発(ムーンライト信州)
04:30 松本駅到着
04:45 松本駅発(松本電鉄)
05:08 新島々駅着
05:20 新島々駅発(バス)
06:25 上高地着

人の流れに乗っていけば不慣れな僕でも上高地に着くことが出来ました。あ、でも松本で降りて上高地に向かうのは半分ぐらいだったかな。松本電鉄に乗車した人数は30人いないぐらい。思ったより空いてるみたいだなー、とホッとしたものの、上高地についたらこんな感じ。

イッパイイマシタ。
空は一面雲に覆われているものの、どうやら心配していたほど、天気は悪くないようです。

初めての登山届けと山岳保険に戸惑いつつ、腹ごしらえをして出発。
出発してすぐに目に飛び込んでくるのが青々とした水を湛えた梓川。

おそらく、気温よりも圧倒的に水温が低いため、川の周囲には常にモヤがかかったようになっていて非常に幻想的な光景。
非常に透明度が高くて、川の中心の一番水深が深い辺りでもうっすらと川底が見えるほど。

いやがおうにもテンションが上がっていきます。

上高地からは明神館、徳沢園、横尾山荘と1時間ほどの間隔で山小屋が続きます。
その間、梓川の真横を歩いたり、梓川に流れ込む細い水流に出合ったりと早くもここが日本有数の景勝の地であることを実感。
東京からほんの数時間でこれだけの光景に出会えるのだから、人気があるのも納得。

こんな岩壁がゴロゴロしてるものテンション上がる感じ。登らないけどさ。

松本について天候が荒れていたら、ジムで登ろうと思っていたのと、もしかして登ってる人いるんじゃないの、登れる場所あるんじゃないの!という思いからシューズとチョークバッグをカバンの横にぶら下げてたんですが、何人目かに人を抜いたところで

「ここら辺で登れるところあるんですか?」との声。
しばらく一緒に歩きながら話をしていると、夫婦で槍に登りに来たそうで、しかも恵比寿J&Sの常連さん。
世の中狭いです。

横尾を越えた辺りから大分山道っぽくなりますが、それまではずっとこんな感じ。
僕はどうやら、一定のペースで歩き続けるのが苦手らしく、ちょっと歩いては立ち止まり、ちょっと歩いては写真を撮りという感じなので抜いた人に抜かれたり、また抜いたりと同じ人に何度も会います。

一番頻繁に会ったのは恵比寿J&S常連夫妻だったけれど、横尾までほぼ一緒のペースで歩いていたのが先頭を歩くオレンジ色の彼。話を聞くと、医学部の6年生で今回山に来たのは病院見学の一環で涸沢の救助隊の駐屯所?まで薬を届けに来たとか。すっかり意気投合し、東京での再会を約束して別れる。彼は涸沢へ、僕は槍沢ロッヂへ。

横尾を越えると徐々に道が整備された平坦な道から岩がゴロゴロとした山道に変わります。平坦な道は歩きやすくて幸せだけれど、やっぱり山に来たからにはこうした道のほうが楽しい。川幅も徐々に狭く、流れが急に。

僕は樹林帯よりも、森林限界を超えた所を歩いている方が好きです。それは空が見えることと、目を少し横にずらすと自分が高い場所にいる、という実感が得られるから。つまり、好きな景色がいつでも見られるから、という事。
八ヶ岳では、赤岳を登って森林限界に至るまで、変わらない景色に飽きてしまったのだけれど、今回は横をずっと梓川が流れていて、目を楽しませてくれるので樹林帯でも楽しんで歩くことが出来た。

こんな花も歩いている時は目を楽しませてくれる。

そうこうするうちに、第一の目的地であった槍沢ロッヂに到着。ここは、状況に応じてここのテン場に一泊するか、槍ヶ岳の頂上直下にある殺生ヒュッテ、槍ヶ岳山荘横のテン場まで行くかを判断するポイントと考えていた場所。というのも、次の山小屋まで4時間以上かかる上に、一気に道が険しくなるので、進んでしまうと引くことが出来ないから。

直前から雨が降り始めていて、徐々に本降りの様相を呈してきたので、凄く悩んだのですが、槍ヶ岳山荘を目指すという2人組みがいたので、僕も向かう事に。

僕もたいがい無鉄砲だと自覚しているのですが、このロッヂで僕を上回る人に出会いました。初登山で北アルプスにきて初日槍ヶ岳登頂。山用のザックを買いに山道具屋に行ったら、最初売ってもらえなかったそうです。結局買うまで3回お店に足を運んだとか。どんな三国志?

槍沢ロッヂのメニュー。正直なのは良いことだと思います。

ここで雨が降り出したので、レインウェアを装備しました。
八ヶ岳の時と違い、今回は上下1セットだけ持ってきた(八ヶ岳のときは3セットぐらい持ってた)のですが、驚きの展開に。
なんと、レインウェアの下だと思って持ってきたものがポンチョだった

頭の中を巡るポルナレフのAAと「ポニョ、ソウスケんとこキター」の声。

仕方が無いので、山荘で売っていたコンビニによく置いてあるビニール製のレインウェアの上下を購入。
ポンチョは見なかったことにしてザックの底部につめた。人間驚くとほんとに動きが止まるんだな、と思った。

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槍沢ロッヂを出発すると程なくして雪渓に出会う。空には見るからに重そうな雲がたちこめているが、すばらしい眺めがそこにあった。晴れていたらさぞ美しいことだろう。

しばらく歩いてから、ある異変が起きていることに僕は気がついた。レインウェアの上が全く水をはじかないのだ。それどころか、水を吸って変色している。少し力が抜けるような心持になったが、この時は脱ぐよりはましだろうと思い、そのままとした。

途中、休憩している際に槍沢ロッヂで出会った2人組みが追いついてきた。一緒に休憩をして、連絡先を交換した時に僕はあることに気がついた。

今回の旅を始める前、twitterで僕と全く同じ日程で槍ヶ岳に登ると言っていた人がいた。その人とは特に出会う約束をするわけでもなく、初日の宿泊予定地を伝え合う程度だったのだが、メールアドレスに見覚えがあったのでツイッターをやっていないか確認したところ、ビンゴ。まさか本当に出会えるとは。この2人とはこの後二日間ほぼ行動を共にすることになる。

上に登るにつれ、悪くなる視界。当然、気温もどんどん下がってくる。ここにきて、先ほどレインウェアを変えなかったことが大きく響いてきた。雨は体にまで到達し、既に上半身はずぶぬれ。風だけでも防いでくれれば、と思っていたが、雪渓を吹き上がる風は恐ろしく冷たく、容赦なく体温、体力を奪っていく。

足取りは重く、少し歩いては立ち止まり、立ち止まると体がさらに冷え、と悪い循環は続いていく。

レインウェアに変わるものとして、ポンチョを持っていたことを思い出し、藁にもすがる思いでレインウェアを交換。雨の中ザックをから物を取り出したり、その場に留まることは非常に辛い。だが、もう必死だった。同じようなペースで歩いているとはいえ、出会った二人は別のパーティだ。自分の面倒は自分で見なければいけない。

人とほぼ一緒に動いていたこともあって、甘えがあったのだろう。目的地まで後どれぐらいなのか、自分がどの程度歩いてきたのかは、既にわからなくなっていた。2人を見失ったらマズい、という思いが体をかろうじて動かしていた。

幸いにして、ポンチョは雨を完全に防いでくれていたが、今度は下から吹き上げる風に悩まされることになる。冬場もスカートの女の子って大変だなー、などと全く関係ないことを考えたり。

天候は相変わらずながら、視界は少し遠くまで見えるようになることがあった。槍ヶ岳の山頂が見えた一瞬。一般にとても憧れの山だそうだが、それまで写真で見たこともなく、上高地についてからはずっと曇っていたので、初めての槍ヶ岳山頂との対面。見えたことへの感動はあったけれど、失礼な話ながら、あー、すげー岩山だなーという以上は何も思わなかった。

槍ヶ岳山頂が見えたことで目標が定まったこともあり、その後は着実に一歩ずつ目的地に近づいているという実感を持って登ることが出来た。自分があとどれだけ歩けばいいのかわからない状況で前に進み続けることは、精神的な負担が全く違う。そのことが歩みを遅め、体力までも奪っていく。これは全ての事に言えることだろう。

槍ヶ岳山荘が見えて、中に入ったときは力尽きて膝から崩れそうになってしまった。(到着時は既に真っ暗だったのでこれは翌日の写真)予定ではテント泊だったのだが、あまりに体が疲れていたので山小屋に泊まる事に。

乾燥室が冬のスキー場以外であるのを初めて知った。幸い、こんな天気の中槍ヶ岳山荘に泊まる人は少なく、両隣に人もおらず、ゆったりと寝る場所を確保できた。また、食事の際には山の様々な話を聞くことも出来た。共に苦労した人と飲むビールは最高で、少しだけ山に一緒に登るパートナーが欲しいと思った。

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