八ヶ岳縦走(初日)
いつだって、それが今、この時じゃなくちゃならないなんてことはなかなか無いんだ。
ましてやそれが、新しい趣味をちょっと始めてみようという場合には。
初めてやることが、期待した通りの適度な喜びや興奮を与えてくれるかどうか
そんなことは誰にも分からない。
だからこそ始めてみる価値があるってーもんじゃないのか。
もちろん、その通りだ。
ある一面で言えば。
逆の立場で言えば、期待した通りの適度な喜びや興奮を与えてくれるかどうかわからない
未体験のことをやるよりも
いつも通りのルーティンに従って行動する方がコストも少なくてすむし、何より裏切りってもんに出会わなくてすむ。
まぁ、それがコストが少なくてすむってことだけれど。
何が言いたいかというと、初めて山登りに行こうとした日の朝なんて
出来る限り布団の中にもぐっていたいってこと。
「山に行ったら15時が行動のリミット」
昔は良く山に行っていたという親父に何度も言われて
明かりの無い場所で、夜がどれだけ暗くて、行動に危険が伴うかぐらい、わかってるよ。
そう思いながらも、直前まで自分が本当に行くのかなー、と他人事のように思っていたりする。
そんな時、周りの人間に何をするのか伝えておくってのは大事だ。
いつの間にか、自分以外の全員は、僕を見送る準備が完璧に出来ていたりする。
月末に近づけば近づくほど、ATMに表示される数字が0に近くなっていくけれど、
今月は一応交通費と、いざとなれば山小屋に逃げ込める程度には残しておいた。
結局、出発するしかないと諦めて
街中で背負うには大きすぎるリュックになるべく暖かそうな服を詰め込んで
家を出発したのが午前10時。
山が好きな人にこんなことを言ったら、怒られるんじゃなかろうか。
それでも、自分の意思で行く、人生二度目の登山はこうして始まった。
ちなみに、自分の意思で行った一度目の山は富士山。
ただ、この山は頂上に土産を売っていたり、夜になると登山者のヘッドライトがまるで天の川のようだったり
いわゆる「山」ってのとは違うんじゃないかなー、と思うから
まぁ、今回を人生初の登山と言っておいてもいいんじゃないかと思ってる。
1人で行くのは初めてだから、そういう意味でなら初だしね。
話を戻して、そんな感じで家をようやくに出発したわけだけれど
世の中的にはまだまだ夏で、慣れない重荷を背負って、富士山で購入した麦藁帽子をかぶって
駅についた頃にはすっかり汗だくになってた。
もうタオル1枚と下着とTシャツがおじゃんになりそうな勢い。
山に登るとき、着替えを最小限に抑えたほうが荷物が軽くなって良いと思うのだけれど
歩いたら汗だくになるだろうし、やっぱり途中で干すのかなー、とか考えてた。(これは翌日実行した)
駅まで付いてしまえば、後はぶらり途中乗り換え各駅停車5時間。
さらに山が好きな人には怒られそうなことに、なんとPSP持参。
行きは延々モンハンをやってたり。一応本も1冊持っていったのだけれど
行きで本を読み終わってしまったら、持っているのが悲しくなりそうだから、あまり読まないようにした。
充電が無くなったPSPの方がよほど悲しいのじゃないか、という説が濃厚だけれど
悲しきゲーマーの性なのです。
話は全然変わるけれど、僕は長距離電車に乗ると、ゆで卵が食べたくなる。
何故かはわからないけれど、あの卵黄が丁度良い具合にオレンジ色で、2個で100円ぐらいで売っているゆで卵が
無性に食べたくなる。
昔懐かし遠足のお弁当の記憶なのか。
昔からゆで卵は大好物だったから、きっと僕のお弁当には、痛むんじゃないかと心配しながらも
母親はゆで卵を入れてくれたに違いない。
薄々気がついてはいたのだけれど、目的地の清里駅に到着した時には既に15時をまわっていた。
これが移動経路。
桜新町(田園都市線)→溝口(南武線)→立川(中央本線)→小淵沢(八ヶ岳高原線)→清里)
こうしてみるとたった5時間でこんなに移動してるって結構すごい。
さて、こうして清里駅についてしまった。
着いてしまった、なんていうと物凄く他人事のようだけれど、ちょっとだけ奮起して電車に乗ってしまったら
後はPSPでモンハンをやっていたら清里駅に到着していたのだから、それは仕方が無い。
着いてしまったものは仕方が無いし、テントも寝袋も無い僕にとって寝場所を確保できないのは生死に関わる。
でも、折角普段よりコストをかけて動いているのだから
人があんまりいないところがいいな、と思ってしまうのは贅沢というものだろうか。
きっと「もったいない」の精神だと思う。
それに、野宿なのだからあんまり人がいない場所の方が受け入れてもらえそうな気もする。
とか考えながらしばらく地図を眺めていた。
さすがにここまで来たら明日は早朝から八ヶ岳に登るのだろうし、なるべく効率よく動きたい。
では八ヶ岳に向かってしまえばいいのではないか。
じゃあ、どんなルートで登ろうか、と考えたら
美し森という場所を少し越えたところにたかね荘という宿泊地とキャンプ場を発見。
いくら多少無理をしに来たとはいえ
山初めて
ソロ
装備ほぼ無し
という状態だし、死にたくないし。出来れば風邪もひきたくない。
そうなると、基本方針は「親切な人に助けてもらう」になる。
でも多少は無理したい。
結局、キャンプ場が安定なのではないか、という結論に至ってここからは足取りも軽く
一路たかね荘へ。
美し森に着くまでは基本的にアスファルトの道だった。
すでに若干肌寒くなっていて、ほとんど車は通らない。
まだ全然高い場所に来ていないのに、既に「高地では15分置きに休んで、1時間で大きめの休憩」等と考えていた。
そんな自分を多少可愛く思いつつ、結局あまり休まずに1時間程度で美し森には到着した。
そもそも、ここまできた道路の脇も全て森だったし、特別このエリアに入って木の種類が変わったとも思えないのに
どうしてここは美し森というのだろうか。
一応観光案内所というのがあったので、そこにいたおじちゃんに赤岳の方向を確認すると
不思議そうな顔をされて、分からないといわれた。
どうやら八ヶ岳は観光案内所では扱わないらしい。
案内所の中には八ヶ岳の模型や壁一面に地図が張り出されていたから、勝手に見ればいいだろうという事だったのかもしれない。
ちょっと悔しかったので、横に併設されていたおみやげ物やで試食品を食べ歩いた。
これで1食ぐらいは浮いた。
少し道を登っていくと、当たり前の話だけれど自分が高い位置に来ているのを実感する。
まだまだ道は整備されているし、人里離れているとは言いがたいけれど、富士山に比べれば人は全くいない。
観光案内所もあったように、ここは観光地であるらしい。
たまにカップルがいたり、どうみてもギャル男の集団がいたりした。
観光案内所から1時間程も木に囲まれた道を歩いたところ、たかね荘に到着した。
立派な宿泊施設があったのでここでも試食品を頂きつつキャンプ場の隅っこで寝ても良いかとおばちゃんに聞いた。
テントを張りたいのか、と聞かれたのでテントも寝袋も無いといったら予想以上に驚かれた。
料金設定にもかなり悩んでいたが、結局風呂付で1500円という事になった。
さらに、キャンプ場の管理人のおじさんに「テントも寝袋もないんだってさー、案内してやってよ!」と紹介され
親切なおじさんは目を丸くしながら今夜は人がいないというロッジの玄関を案内してくれた。
天気も良いし、晴れていたので、まさか雨が降るとは思っていなかったのだが
素直に好意に甘えることにして風呂に入り、夕飯として五穀米のスープを食べて終了。
食料さえも満足に無かったりする。
チョコレートは偉大だ。