boulder 初段 塩原

塩原で「千(初段)」を登った

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ネガティブな事があるとブログに書きたくなくなる病のせいでブログに書いてない&自分の記憶も曖昧になってきてしまっているのですが、2013年4月1日、たしかヒデさん、きたむーと塩原ボルダーへ行った時に「千(初段)」トライ中に手首を痛めました。日付はカレンダーに記録残してあったので正確。

今回登ったムーブだとそんな動作しないから当時は違った登り方をしていたみたいですが、中間部のガバを左手で取って、その後右手を寄せてくるという動きをしたら左手首から「コキッ」という音が聞こえて(そんな大きな音がなったとかではなくて関節が鳴る程度のわりと良くある感じでした)、その瞬間は痛くなかったのですが、少ししたら痛みが強く出て来てあわてて川の水でアイシング。

最初の腫れが落ち着いてからは普通に登っている分には全く痛みがないのに、丸みを帯びたスローパー(モルフォの丸いボテみたいな)を持とうと力を入れるとかなり痛みが強く出て保持出来ない状態に。 そのうち良くなるかと思いきや、それから丸々4年色々な人に見てもらうも大きな改善はなく、左手ではスローパーが持てない、というのが常態化してしまっていました。

これまでだと痛くて持てなかったホールドを持っても痛みや手首が抜ける感じが減った、無くなったと感じたのは今年(2017年)の春先。このトレーニングだけしておけば手首はバッチリ!というのは無いのですが、左肩の安定性を高めるトレーニングをやる中で手首や指に関しても色々な筋トレ・動作練習をするようになっていた事、そして左肩を診てもらった先生に手首に関しても少しずつ診てもらっていた事の両方が手首の改善に繋がったのかな。(もちろんいくつかこのトレーニングが凄く良かった!というのはありますよ)また、肩の安定が高まった事は手首、そして指にもとても良い影響が出ていると感じています。

その怪我以来足が遠のいていた塩原に今回久しぶりに行ってきました。

今では登っていて気になることがほぼ無いといっていいほどに手首が回復した事で、ケリをつけたかった、というと語弊があるのだけれど、ずーっと心のなかに溜まっていた「千」に向かう気持ちになったのかなー。元々塩原方面に行くつもりじゃなかったんですが、丁度天候の都合で東北方面に転戦する事になったので、その流れで塩原行きを決めました。

そうはいってもずーっと不安で、前日の夜なんかはだんだん塩原に行きたくなくなってしまって、予報に反して雨が降ったりしてコンディションが凄く悪くなってしまっていたりしないかとか、マダニに噛まれて治療した左足に少し痛みがある状態だからやめたほうがいいのではないかとか、行かない理由を必死で探していました。

手元のスマホで過去の天気、明日の天気予報を何度も調べる最中に突然「なんでこんなに必死で行かない理由作りをしてるんだろう」と思って。そうしたら急にストンと不安がお腹の中に降りてきました。自分がどれだけ千に向かうことを怖がっているのか飲み込む事が出来たのかな。そうしたら、徐々に塩原に行くことをポジティブな気持ちで捉えられるようになりました。

朝ついたら岩はシケシケ、決して良いとはいえないコンディションだったと思いますが、友人のグループと偶然出会った事もありテンションアップ。

しばらく後悔岩でアップしてからムーブ作りのつもりでスタートから取り付いてみたところ、非常に好感触。さらっと後半に突入出来たので今日完登出来ることを確信。

完登するつもりでとりついた1トライ目。後半2度目のマッチする場所がしっくり来ず、フォール。フォールした事よりも、あっさりとそこに来れたことを喜んで、次のトライに備えてレスト。

2トライ目、レストをするのが良いかと思ってチョークバッグをつけてトライ。するもレストで疲れてしまって頑張るまで行かずフォール。

3トライ目、やはり2度目のマッチがしっくり来ずフォール。

。。。。段々と積み重なるトライに確信したはずの完登が揺らぐ。

もしかしたら出来ないかもしれない。

まわりでトライしている人達はフォールするたびに「ぬめってるー!」「今日悪すぎ!」と言って笑いあっている。

仕方ない。今日はコンディションが悪い。
そんな気持ちに流れそうになった。

3日間登り続けたその3日目、体も疲れているし、指皮もない。
マダニに噛まれるというハプニングもあった。
長時間の運転と寝不足。

今日じゃなくたって、いつでも登れる事はもうわかった。充分じゃない?

そんな風に思いたくなる自分がいた。

逃げ出したい。

それでも、今日のこの確信をどうしても形にしたかった。

気持ちを切り替えて中間部からのムーブさぐりを入念に行う。
1回目のマッチの部分もなんとなくではなく、確実に持つ場所を決めた。
2回目のマッチ、途中からやっても高さの不安とホールドの甘さから手を出す気持ちになれない。
何人も同じ課題をトライしている人はいるし、マットも必要な場所に行き渡る程度にはしいてある。
でも、元々スポット頼みで1手を出したことは殆ど無いし、逆にそこに人がいる事が不安となって出す手に集中する事が出来ない。
自分の気持ちがコントロール出来なかった。

回数にしてみたらほんの5,6回程度だと思うのだけれど、1回試す毎に心が負けそうになった。
今思うとどうしてあんなにも千の完登に心を向かわせる事が難しかったのか不思議に思う。
それでもその時は本当に何度ももうトライをやめて帰ろうか悩んだ。

何度目かの中間部からのムーブ作りで2回目のマッチ部分のムーブが固まり、ついにその先のホールドを手でつかむ事が出来た。残す未知の部分はリップだけ。ここまで探っておいて、どれほどの違いがあるのか、とは思うけれど、やっぱり可能な限り未知の部分を残して完登したくて最後のリップには手を伸ばさずに降りた。

準備は整った。
自分の気持ちをあと一歩前に向かわせるために、友人グループにマットを貸してもらう(彼は厚手のとても立派なマットを持っていたのです)事とスポットをお願いすると快く承諾してくれた。

下地を整え、千へのトライを開始。
一度も後ろを振り返る事無く、岩の頂上に立つことが出来た。

なんだか色々な気持ちがごちゃごちゃして、泣きそうになった。

もう僕にとって困難なムーブは一箇所も無かった。
長い月日を費やした課題でもない。トータルでも千をトライした日数は3、4日程度。
なんでそんなに、と自分でも思う。

この左手首に悩まされた約4年半。
手首が痛い、と思うたびにこの課題の事が脳裏に浮かんでいて、その事がずーっと心のなかに降り積もっていたんでしょうか。

この日彼らに偶然会うことが出来なかったら、そしてあの場にいてくれなかったらこのタイミングで完登する事は出来なかった。本当にありがとうございました。 

また、僕がこの課題だけに集中する時間をくれた同行の2人にも本当に感謝。何度も諦めそうになった時、帰る言い訳のだしに使いそうになったけれど、そんな事は気にしないでいてくれるだろうと思えた事がとても力になりました。ありがとうございました。

そして、4年半前と変わらぬ姿でこの地にあってくれた岩と、課題とに感謝。

チッピングっていうのはこういう気持ちを奪う行為なんだな、と今このブログを書いていて強く思いました。

多くの人が岩を登る以上、岩そのものが変化する事は避けられるものではないけれど、少しでも長く同じ形が保たれる用に。
各々がお互いのために。どうしたらよいか常に考え、実践していきたいですね。

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